館長ノート

2014年2月4日、阿部展也は生誕101年目を迎えます。

2014年、新潟市美術館は「あそぶ浮世絵 ねこづくし」でスタートしました。平木浮世絵財団さん所蔵の広重、国芳、芳年などのねこにまつわる浮世絵を総まくり。江戸の暮らしに息づく遊戯精神満載の楽しい展示となりました。

こちらと一緒にぜひご覧いただきたいのが、コレクション展Ⅳ「101歳の阿部展也」です。阿部展也(1913-71)は五泉市出身の前衛美術家。戦前にシュルレアリスムの洗礼を受け、1950年代末に本格的に抽象に転じ、62年にはイタリアに制作の拠点を移します。新潟から世界へ羽ばたいていった画家であり、しかも彼の地の前衛作家たちと親密な交流を結び、ローマにおけるその早すぎる死までたゆまない探求を続けました。戦後日本美術史において揺るぎない位置を占める作家といってよいでしょう。昨年が生誕100年の記念の年だったので、今年は生誕101年目に当たるという訳です。

新潟市美術館ではこの阿部展也を最重要作家と位置づけ、絵画、立体、素描、印刷物等、600点を超える作品を収蔵してきました。きりの良いタイミングからは少しずれてしまいましたが、彼の多様な業績を大勢の市民の方々に見ていただきたいという想いから、常設展示室全体を使って特集することにいたしました。シュルレアリスムの影響を受けた絵画や素描、エンコースティック、ベニヤ板、卵ケースなど、物質との格闘の跡が顕著な作品群、大画面の明快な抽象作品、挿絵や旅先でのスケッチ、モノを飽くことなく見つめ、その内側に入り込んでいくようなデッサンなど、多様な作品群が並ぶさまは壮観です。

今年23月には、新潟出身のイキの良い現代作家たちの企画展「ニイガタ・クリエーション‐美術館は生きている」を予定していることもあって,地域における創造活動を考えるとき、阿部展也という存在はひとつの参照点となるに違いありません。かつてわたしが勤務していた東京都現代美術館でも阿部展也の1951年作の絵画《神話A》を所蔵しており、折に触れ、実存的ともいえるその厳しい人間描出に感銘を受けていましたが、今回改めて阿部展也という芸術家の大きさと意味深さを実感しています。ぜひ、ひとりでも多くの市民、そして全国の美術ファンの方々にその一端なりとも触れていただきたいと願っています。