新潟市美術館ブログ

【川村清雄展】丹尾安典先生、人と仕事

「川村清雄展」の最初のレクチャー「川村清雄、人と仕事」が、11月14日(土)午後2時より開催されました。講師は早稲田大学文化構想学部教授の丹尾安典(たんお・やすのり)先生です。日本近代美術史・フランス近代美術史の分野で多数の業績がある先生ですが、特に川村清雄に関しては、「川村清雄研究寄与」(『美術史研究』第24冊、早稲田大学文学部美術史研究室、1986年12月。再録『川村清雄研究』中央公論美術出版、1994年11月)が、「地固め」のような基礎文献となっています。ベーシックというだけではなく、30年たった今も、新しくて面白い論文です。今回のご講演も、縦横無尽の語り口で90分、参加者をひきつけて離さない、素晴らしい時間でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは、ご蔵書自慢から。先生は大変な蔵書家です。美術館・博物館・図書館と同じくらい、あるいはそれ以上に、古本屋に通う方なのです。一冊の明治期の古書の片隅から採集された、これまで誰も知らなかった(たぶん)川村清雄の逸話が披露されました。川村清雄は時々オカリナを吹いていた!という話です。「川村清雄の作品に、音が加わるようじゃありませんか」と先生はニコニコ。ディテールやニュアンスから成り立つ歴史、というものがあるのです。

 

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「欲しい本でも、買うのをためらう値段がついていることもあります。その時はあきらめても、ずっと欲しいと思っていると、あたかも霊が降りてくるかのように、また目の前に現れるものなんです。こんな風に」と言って投影されたのは、古書店の値札、500円。みな爆笑。先生は得意そう。本は、持っていないよりも持っている方が偉い。買わないよりも買った方が偉い。しかも、ただ買うのではなくて、なるべく安く買った方が偉い。というような、厳しくも楽しい研究の道の一端を示された思いでした。研究者は、「古本の霊」のイタコのようなものなのでしょうか。

 

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丹尾先生は、川村清雄長男の故・川村清衛さんとも厚い親交をお持ちでした。お二人は、日本近代美術史の専門学会である明治美術学会の、創立当時からの会員なのです。清衛さんは、ご自身も父・清雄の研究に取り組み、川村家の父祖の顕彰と検証に、大きな努力を払われました。清衛さんとの楽しいお酒の思い出など、先生は懐かしそうに語られます。この30年の間に急速な充実を見た日本近代美術史研究は、その初期から川村清雄を一つの核としていたこと、そして、それは同好の士の和やかな交流の中で取り組まれていたことは、それ自体が一つの歴史になろうとしているのかもしれません。

 

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名調子で語られる、川村清雄の人と作品。そして、この日の一つのクライマックスは、「これは今日初めてお話しします」と不意に始まりました。いずれ丹尾先生がご自身でお書きになるでしょうから、ここでは詳しいことはお伝えしませんが、川村清雄の代表作に関する、新しい解釈です。仮説自体に説得力があるばかりでなく、それを裏付ける複数の傍証も挙げられました。極めて有力な解釈として、今後は定番化しそうな新説です。そのお手並みもさることながら、そういう大切な発見をお話し下さったこと自体にも感激しました。一期一会の場であっても、そこにいる誰も知らない話をする、ということを、先生は研究者としての務めだとお考えなのかもしれません。感謝とともに、畏敬の念を覚えた次第です。

さて、川村清雄展の次回イベントは、11月22日(日)午後2時より、中野三義先生のレクチャー『初代新潟奉行・川村修就の治政』です。先ごろ多年にわたるご研究を、著書『新潟奉行川村修就の治政の総合的研究』(当館ミュージアムショップで好評発売中)をまとめられた中野先生。史料を繰り返し読んで、深く考える、歴史研究のお手本に触れてください。