館長ノート

カッセル,ドクメンタ展のこと

ドクメンタ展会場,正面がゴシュカ・マクガタ(ワルシャワ生まれ,ロンドン在住)によるタペストリー

ドクメンタ展会場,正面がゴシュカ・マクガタ(ワルシャワ生まれ,ロンドン在住)によるタペストリー

8月下旬,休暇を取り,ドイツの地方都市カッセルに行ってきました。5年に一度の大規模な国際展ドクメンタ展を見るためです。貧乏性のせいか,折角の海外での休暇も,結局美術館や展覧会を訪ねて終わってしまいます。でも,無理して行っただけのことはある,見ごたえのある展覧会でした。

 カッセルという街は,丁度ドイツの真ん中あたり。第2次大戦後東西に分断された敗戦国ドイツ(当時は西ドイツ)において,文化に復興のよりどころをという思いで1955年に始まった現代美術の国際展です。以来,回を重ね,今年で13回目。世界中から美術ファンの集まるビッグイベントです。私も1982年に最初に訪れて以来,87年は見逃したものの今回が6回目の訪問になります。

 このドクメンタ展,毎回ディレクターが全責任を負って作家を選定。尖鋭で個性的な企画はいつも刺激的です。今回のディレクターは,キャロライン・クリストフ=バカルジェフというアメリカ出身の50代半ばの女性キュレーター。いまアートは人々に本当に必要とされているのだろうか。アートに何ができるのだろう。こうした反省から,カッセルだけでなくアフガニスタン,エジプトなどでも展示が行われていたようですが,なにより印象的だったのはその囚われることのないしなやかな視点でした。最先端の表現は当然として,その一方で,半ば忘れられた老画家の作品を発掘し,タぺストリーや陶芸といった従来現代美術の領域ではあまり注目されてこなかった分野を取り上げています。プロの芸術家ではない人の作品,たとえば,リンゴの品種改良に尽くした農業技師が描いたリンゴの水彩画や,初期コンピュータ開発に携わった科学者の未来派風のドローイングまで展示されています。驚いたのは,現代作家の作品のとなりに展示されていた典雅な小像が,「バクトリアの姫君たち」と呼ばれる中央アジア出土の考古遺物と知ったことです。時代と地域を超えて注がれる曇りない眼に感心しました。

 日本でも地域おこしの国際展ばやりの作今,学ぶべきところは多いのではないでしょうか。新潟市美術館の企画にも,こうした自由な発想が活かせればと念願しています。