館長ノート

草間彌生展と有元利夫展、そして作家と共に時代を生きること

昨年末の草間彌生展、最終的に25,654人という大勢のお客様にご来場いただき、幕を閉じました。ありがとうございました。これはなんと当館開館以来2番目の大入り記録だそうです。カラフルな絵画を熱っぽく見詰め、水玉のポップなオブジェを前に記念撮影、ノートに草間芸術への共感の言葉を書き連ねる市民の皆さんの熱気に圧倒されました。かつて、駆け出しの学芸員の私が80年代の初めに草間さんをアトリエにお訪ねした頃の、草間さんの孤絶を想うと隔世の感があります。老若男女を問わず親しまれるようになった草間さんの成功を喜ぶと同時に、時代の変化をひしひしと感じました。

そして年が明け、こんどは打って変わって静かなたたずまいの有元利夫展です。70年代中頃から80年代半ばにかけてまさに彗星のように駆け抜け、39歳でわたしたちの前からいなくなったあの画家です。イタリア・ルネサンスの古画をおもわせる、国籍不明の時代を超越した表現は、没後30年近く経ったいまでもまったく古びていません。音楽を愛し、画面にその響きをかなでようとした画家の世界を追体験していただくべく、会場に低くバロック音楽を流し、またアトリエ風の一画をしつらえました。ところで、残念ながら私は有元さんにお目にかかっていません。有元さんはいったいどんな人だったのか。そこで、生前親しく交流された彌生画廊の小川貞夫さんと、同じ芸術家として有元さんに共感を寄せる彫刻家の舟越桂さんのふたりをお招きして、お話を伺うことにしました。小川さんのお話は有元さんの人となりを彷彿とさせるものでした。2月3日の舟越さんとの対談では,画家有元について独自の見解が聞かれることでしょう。ご期待ください。

草間彌生さん、有元利夫さん、そして舟越桂さん。これら卓越した表現者と、あるいはその作品と、ひとつの時代を共に生きることができることのしあわせを私は深く感じています。それこそ学芸員冥利というものかもしれない。美術館の役割は、そのしあわせを橋渡しすることではないのかとしみじみ思うのです。