館長ノート

コレクションの展示について

また春がめぐってきました。美術館の向い,西大畑公園の桜も5分咲きといったところ。きっと来週には満開でしょう。

この日曜日で,「新潟ゆかりの作家たち展」も終了です。長井亮之,富川潤一,江川蒼竹という新潟の風土に根差した作家の仕事を,間近に見る良い機会となりました。それぞれの作家さんに教えを受けた方,直接,間接に交流のあった方などが,熱いまなざしを注がれていました。

一方で,今年度最初のコレクション展が今日からスタートしました。題して,「名品図鑑A to Z」。新潟市美術館の収蔵品のなかから,人気の高い作品,これぞという作品を作家名などのABC順に並べてみました。昨年度から美術館では,企画性の高いコレクション展を工夫してきました。その点からするとABC順など学芸員の創造的作業を否定するように映るかもしれません。でも,実際はそれとは逆で,作為がない分だけ,思いがけない組みあわせが実現。意外な発見のある展示になりました。

昨年,担当学芸員からこのアイディアの提案があったとき,私は思わずはたと手を打ちました。かつて,広島市現代美術館が写真家の都築響一さんにコレクション展のゲスト・キュレーターを依頼したことがあります。都築さんは,このとき広島出身,在住等の郷土関係作家の作品をなんと作家名の50音順に並べてみせたのです。いつもは収蔵庫に眠っていてあまり登場しない作家の作品を見ることができたり,美術史的通念に立つ限り,まず隣り合って展示されたりすることのない組み合わせが出現したりと,楽しいことになりました。投げやりなようでいて,実は昨今のキュレーター至上主義に対する巧まざる批評にもなっているという,すこぶる挑発的な試みでした。

私はこのことを思い出したのです。結果は予想以上のものになりました。阿部展也,ボナール,カリエール,デスピオと続き,最後はザッキンで終わる並びは,それぞれの作品のこれまで気づかなかった特性を引き出してくれているようにも思います。

先日,神奈川県立近代美術館葉山館で修復をテーマにした展覧会を見た折,とても素敵な言葉に出会いました。「修復」は作品を物理的に甦らせることだけれど,「鑑賞」は作品を精神的に甦らせることだというのです。私たちのコレクション展も,常に作品に若々しい生命を与え,新たな意味を引き出すものでありたいと考えています。