館長ノート

いよいよ,靉嘔展。

12,000人近い市民のみなさんにご覧いただいた「平山郁夫展」,先週の日曜日に無事終了しました。息つく暇もなく,この土曜日からは次の展覧会,「靉嘔 ふたたび虹のかなたに」が始まります。

この間,わずか5日間。前の展覧会の作品を1日で片づけて,次の日には美術品専用のトラックに載せて,搬出。同じ日の午後には,次の展覧会の作品が到着。展示室に運び入れたところで,梱包を解き,翌日から3日間で展示という次第。学芸員総出のまるで戦場のような有様です。

 今回の「靉嘔」展,シルクロードに取材した典雅な作品が並んだ「平山郁夫展」とは,打って変って,明るくにぎやかで,エネルギッシュな展覧会です。靉嘔(あいおう)という作家名自体が,50音順で真っ先に来る名前をという,人を喰った発想から生まれたペンネーム。作品も型にはまらず,自由で楽しいものばかり。展覧会初日には靉嘔さんに講演していただきますが,そのタイトルも「自由について」。

 アートに限らず何事にも約束事があり,私たちは知らず知らずのうちにそれに縛られてしまっています。本来,アートとは,型どおりの約束事とは無縁の,想像力の賜物だったはず。靉嘔さんは81歳の今日まで,しなやかに自由に,そしてユーモアを交えて,作品を生みだしてきました。ニューヨークでのパフォーマンスも,レインボー・カラーに染められた絵画も,触って体験する作品も,どれも自由な精神の産物です。

 自由であることで,アートと日常の生活との垣根は取り除かれ,作品の中にどんどん日常が入りこんできます。台所用品や文房具,バイオリンや帽子や靴,こどものおもちゃなど,何気ない「もの」の数々が靉嘔さんの作品にはあふれています。展示室の天井から吊るされた,黄色いバットや白いから傘や逆さになった象のぬいぐるみやソンブレロは,まるで満艦飾のカーニバルです。美術館の中庭,「海の庭」には,虹色に染めた布や衣服が洗濯物のように高く掲げられています。東堀通から美術館に近づいてくると,色とりどりの布が風にはためき,青空に翻るのがふっと眼に入り,解放されたような気分になるのは私だけでしょうか。夏の一日,色彩のシャワーを全身に浴びて,自由な心を取り戻してみませんか。