館長ノート

〈正・誤・表〉あとすこし

ぐずぐずしているうちに「正・誤・表」が終わりに近づいてきました。あわてて館長のノートを書きます。美術館を展示する、学芸員の仕事を展示する、という展示は全国的にみればこれまでもなかったわけではありません。

私が勤務していた埼玉県立近代美術館でも、2002年に「美術館物語」という展覧会をやりました。開館20周年記念の大型の展覧会に資金を回すために、極小の予算で1本展覧会をやる必要がありました。そこで考えたのが、学芸員が普段目にしている物や日常的な仕事を展示しようというアイデアです。お金がないときには名案が浮かぶものですが、学芸員が何をしているか、知ってもらえば、美術館への理解が深まるだろう、というねらいもありました。
「いいお仕事ですね。椅子に座って絵を見てるんでしょ。」という、その頃の学芸員なら一度は言われたであろう誤解をはらすことにもつながるかもしれない、とも。おかげで「美術館物語」は、観客から「埼玉でこんなに力の入った展覧会をみたことがありません」といわれ、「普段も力は…」と恥ずかしい思いをしたこともありましたが、好評でした。
そんな展覧会をやったせいで、ごく一部の人から「正・誤・表」も私の差し金と思われたりしますが、私の着任前からの企画です、念のため。もっとも、準備中や展示中に何度かちょっかい出しましたが。
面白い偶然は、「美術館物語」で会場に作った学芸員の部屋と同じく、「正・誤・表」にも学芸員の部屋があることです。もっとも、「美術館物語」では学芸員はごくたまにしかいませんでしたが、「正・誤・表」の学芸員部屋には、しょっちゅう担当学芸員が「展示」されています。

ここには美術館の現実が切り取られています。「価値と判断」という、展示機会の多い作品と少ない作品の展示などは、美術館としては言いにくい話ですが、多い、少ないが出るのが現実です。こんな現実を「ふふふ」と笑うか、「ふーん」と考えるか、いかがでしょうか。あと数日になりましたが、この稀な機会を逃さず、ぜひご覧いただくことをお勧めします。
なお、個人の方の宝物を借用して展示する「わたしたちのたからもの」では、私の宝物も展示しています。

展示室に突然あらわれる「倉庫」(という「展示」)