館長ノート

美術館で「明日の新潟」を考える。

今年の春の歩みは随分と遅いようです。4月に入っても寒さが続き、桜の満開も大幅にずれ込みました。

開催中の「広重ビビッド」展。そんな不順な天候のなかでも、大勢のお客様で賑わっています。ビビッドというだけあって、まるで刷り上がったばかりのような、藍や青の鮮やかさに思わず見入ってしまいます。そんな至福の瞬間も、時を超え、それらの作品を保持し、守り抜いてきた原安三郎氏という稀有なコレクターあってこそ。その存在なしには、貴重な作品も私たちには縁のないものだったかもしれません。美術館のコレクションについても同様です。それは選び抜いた美術品に特別の価値を見出し、それを未来へ送り届けようとする試みなのです。

折から、常設展示室ではコレクション展Ⅰ「明日の新潟」を開催中。今年が新潟市政令指定都市移行10周年に当たることから、新潟という場所で生み出された美術、新潟で生を享けた美術家たちが生み出した作品に焦点を当てた企画です。新潟市美術館は新潟という土地を抜きにして成立しません。新潟という固有の自然、歴史、文化を有する土地で美術を考えること、それは必然的にこの土地に関わる視覚的体験、風土と表現の関係を問うことにほかなりません。

冬の曇天の大地は陰鬱で単調な灰色の風景に見えて、西村満、布川勝三といった新潟の絵描きの手に掛ると、実に微妙で豊かなこの土地のリアリティが立ちあがってきます。佐藤哲三が描く、晩秋の夕暮れ時の用水路に挟まれた原野にしても、ほぼ半世紀後に描かれた清水伸や信田俊郎の色面で構成された抽象表現と、驚くほどの親和性で響き合っています。
ここ数年、新潟市美術館は新潟県出身の若い作家を紹介する展覧会を企画、その作品をコレクションに加えるという活動を積極的に行ってきました。丸山直文のにじみの技法による絵画、阪田清子のたくさんの脚の生えた奇妙な椅子、冨井大裕のありふれた日用品を組み合わせてつくり出す彫刻は、その好例です。彼/彼女らは今や日本の現代美術を代表する作家と目されています。その新たな感性こそが明日の新潟の美術を切り開くのです。
今回は旧BSN新潟美術館所蔵で当館に寄託中の名品も併せて展示。この地で美術館活動の先駆けとなった同館も、明日の新潟への試みだったのです。

企画展で広重をご覧になったあとは、新潟の風土と美術の関係に思いを馳せ、明日の新潟を考えるのも一興ではありませんか。