館長ノート

石川直樹《MAREBITO》が誘う「異界への旅」

猛暑の後は雨の多い8月です。西大畑公園の樹々もかすかに色づき、今年の秋の訪れはどうやら早そうです。

「山の日」の前日、8月10日に「石川直樹 この星の光の地図を写す」展が始まりました。石川さんは「水と土の芸術祭」でもおなじみの旅する写真家。過酷な気象条件下の北極、南極への旅、ヒマラヤ8千メートル峰への挑戦。かと思うと、伝統的なミクロネシアの航海術を学び、星の位置だけを頼りに島から島へと航海を試みたりもしています。それはまさに身体を介した世界の探索に他なりません。もちろん僻遠の地にも人は暮らし、特異な環境条件に即した独自の生活のスタイルを作り上げています。石川さんはそうした独得の暮らしぶり、人と自然との共生、伝統的な習俗などに、まるで民俗学者のようなまなざしを注いでいきます。

私がとりわけ心惹かれるのは、《ARCHIPELAGO》、つまり「群島」というシリーズです。私たちは日本が島国であるということは知識としては知っています。でも、日本列島がそれだけで完結しているのではなく,インドネシアやフィリピン、台湾、八重山、宮古、奄美、そして北は、サハリン、千島列島と続く、島々の連なりの一部であるということを実感として分かっていないのではないでしょうか。石川さんはこれらの島々を巡る旅を2009年頃から、続けています。それぞれの島の暮らしや風習、祭りを比較対照してみることで、思いもよらぬ共通性や同質の部分が浮かび上がってきます。

たとえば、奄美や沖縄、日本海側の北陸、東北などには、海の向こうからやって来る神「まれびと」についての伝承があり、季節ごとの伝統行事として守り伝えられてきました。秋田の男鹿半島のナマハゲは有名ですが、石川さんはそれら来訪神のまつりを《MAREBITO》としてまとめ、今回は特に南の島々のものを選んで、展示しています。異形の神々は恐ろしげではあるけれど、共同体に恵みをもたらし、やがて去っていく存在なのです。

石川直樹は日常を超える彼方の世界、いわば異界への旅人でもあるのです。だから、彼の写真はいつもここではないどこかに連れていってくれるような誘いを秘めています。
ちなみに、今回のコレクション展は「異界への旅」。こちらの旅もお試しください。

石川直樹《MAREBITO》(2009年~)より

 

企画展「石川直樹 この星の光の地図を写す」 展覧会情報はこちら

コレクション展Ⅱ「異界への旅」」 展覧会情報はこちら