舟越桂 彫刻と出会うとき
今年度最初の展覧会「舟越桂-私の中のスフィンクス」展、始まってから約1か月が経過しました。
考えてみれば、私が最初に銀座の画廊で舟越さんの作品を見たのが1984年のことですから、かれこれ30年以上前のことになります。当時は具象の人物彫刻というとヌードのブロンズ像と相場が決まっていただけに、着衣の木彫半身像、しかも彩色され、大理石製の玉眼がはめこまれたそれらの作品は、とても新鮮でした。以来、個展の度にその作品に触れ、その変貌の様を見続けてきた作家さんであるだけに、今回の当館での展覧会はひとしお感慨深いものがあります。
当館では2003年に、「作家からの贈りもの」という展覧会を開催しています。これは画家や彫刻家が幼い息子や娘のためにつくったおもちゃの類を集めた展覧会でしたが、そこに実は舟越さんの心づくしの愛らしい人形や小さな木の家などが出品されていました。加えて、3体の彫刻も出品されていたのですが、それをご覧になった方はきっともっとたくさんの彫刻を見たいという思いに駆られたのではないでしょうか。その意味では、舟越桂展、待望久しい展覧会だったといっても過言ではありません。
初期から近作にいたる30点の彫刻、40点近いドローイング・版画からなるこの展覧会は、舟越桂の現在を見るには格好の機会です。でもこれだけのボリュームの彫刻を展示するには、どう考えても企画展示室だけでは足りない。彫刻がひしめき合う満員電車のような状態になることは目に見えている。そこで思い切って、企画・常設の両展示室を使って、全館で舟越作品を展示することにしました。当館始まって以来の大英断です。
結果的に、初期の肖像彫刻の部屋、胴体が山に変容した作品の部屋、両性具有の謎めいたスフィンクスの部屋、最新作のヌードの女性像の部屋とそれぞれメリハリがつき、舟越桂という彫刻家の変遷の過程がより理解しやすくなったような気がします。なによりも、ゆったりとした空間で彫刻が息づいている。そして、お客様の様子を見ていても、彫刻の周りを巡り、あるいは正面から顔を覗き込み、なにかを問いかけている。作品と鑑賞者との間にかけがえのない対話が生まれているのでないか。そんなまたとない彫刻との出会いのひとときを楽しんでみてはいかがでしょう。