館長ノート

ピカソの里帰り 只今作品貸出し中

 

開催中の「洲之内徹と現代画廊」展。芸術新潮で一世を風靡したエッセイ『きまぐれ美術館』の著者として知られた洲之内徹のコレクションを通じ、かれの眼と精神のありようを感じてもらおうという展覧会。現代画廊を経営する過程で洲之内が手元に置いていた作品群は、没後宮城県美術館がまとめて収蔵されています。そのコレクションを中心に、国内のいくつかの美術館にあるゆかりの作品を加えて、構成したのが今回の企画展。

コレクターの遺志が、ある公立美術館に引き継がれ、それが他の館でも公開され、より多くのひとびとに共有されるのはとても意義深いことです。わたしたちの美術館に限らず、世界中のどこの美術館も、こうした美術館相互の作品の貸し借り、助け合いによって支えられ、成り立っています。

こうして私たちは日常的に多くの作品をお借りしているわけですが、逆に他館に貸し出すことも少なくありません。たとえば、いま現在美術館は国内外あわせて3つの展覧会に作品を貸し出しています。ギュンター・ユッカーというドイツの作家と前田常作の作品をうらわ美術館に、宮崎進作品を神奈川県立近代美術館葉山館に,そしてパブロ・ピカソの《ギターとオレンジの果物鉢》という自慢の名作を、スペインはマドリッドの美術館に貸し出しています。

このピカソ貸出しの話が起こったのは、昨年の夏ごろ。私のもとに1通の英文の手紙が舞い込んできました。手紙の主はマフレという財団が運営している美術館。最近意欲的な活動をしているということで、うわさには聞いていました。「ピカソのアトリエ」という展覧会、その展覧会の趣旨を説きながら、なぜ新潟の作品が必要かを切々と訴えています。素晴らしい作品と言われれば悪い気はしません。早速返事を書きました。「趣旨はよくわかった。でも、新潟市民に愛されている大切な作品だから、こちらにも条件がある。しっかり保険を掛けること。信頼できる美術運送会社が作品を運ぶこと。わが館の学芸員が作品に付き添っていき、展示・撤去に立ち会うこと。(この役割を業界ではクーリエといいます。)」

やがて返事が。「おっしゃる通り。展覧会は2月から5月まで。その前後、1月末と5月中旬に貴館からクーリエを派遣してください。もちろん、それに伴う経費は当方が負担します」と。

そこで、当館学芸員が、新潟からマドリッドまで、可愛いわが子の長旅に付き添ったとうわけです。スペイン生まれのピカソですから、里帰りとも言えるでしょう。報告によれば、わがピカソ、展覧会のなかでもとりわけ重要な作品と目され、ひときわ目立つ場所に飾られたようです。ピカソをはじめ多くの購入作品は、新潟市民の血税によって賄われたもの。それらを大切に保管し、市民のみなさんに見て頂くことはもとより、国内外に積極的に貸出し、新潟市美術館の存在を世界にアピールしていくことも等しく重要なことではないでしょうか。今度は帰ってくるピカソに付き添うために、また別の学芸員が今週中に出発します。わがピカソがどんな風に歓待されたか、土産話が楽しみです。

マドリッドでの展示作業の様子

《ギターとオレンジの果物鉢》マドリッドでの展示作業の様子