館長ノート

「サザエさん!展」、快調です。

西大畑公園の木々の若葉も彩りを増し、初夏の日差しが眼に痛いこの頃。「サザエさん!展」もオープン以来1カ月半が過ぎ,折り返し点にやってきました。連休後の中だるみからも回復、1万人達成も間近です。

今回の特徴として気づくのは、お客様の多くが言葉も交わさずに大量の原画に見入っていること。水を打ったように静かに、しかも熱を帯びて,サザエさんに読みふけっているのです。それだけ長谷川町子さん描くところのサザエさんは、時代を超え、訴える力を持っているということなのでしょうか。

クール・ジャパンとやらで、空前のアニメ・まんがブーム。新潟市でもマンガ・アニメ情報館がオープンするなど,話題に事欠きません。全国の美術館でも、アニメ展やまんが展が花盛り。でも、その多くは外部のプロダクションなどが企画したもの。美術館が直接、関与したという例はそれほど多くありません。

ところで,この「サザエさん!展」に関しては、まったくの当館手作り、オリジナルの企画。小規模な文学館などでの展覧会はあったものの、それなりの規模の公立美術館では初めてです。実は私がサザエさんの原画を所蔵する長谷川町子美術館と懇意にしていたことから、無理を言って借用をお願いした次第。ご快諾いただいたものの、膨大な数の原画やデッサン、単行本の類から何を選び、どう料理し、まとめ上げたものか。担当学芸員にとっては、気の遠くなるような作業だったはずです。

長谷川町子さんといえば、国民栄誉賞も受賞した戦後まんがの第1人者。今回の展示を通じ、その制作の秘密が明らかになりました。たとえば、新聞と単行本とは、コマのサイズが違うので、少し変更する必要が出てきます。最初新聞のために描いた原画をハサミで半分に切り、適当な間隔を置いて貼り直したり、余白にさらに描き加えたり、繊細な編集作業が町子さん自身の手で行われているのです。町子さんは戦前、のらくろで有名なまんが家、田河水泡に14歳で弟子入りしますが、そのとき持参したスケッチ帖なども出品されています。その腕前の見事なこと。そこにはサザエさんの人間味あふれるユーモアが既にただよっています。町子さんがサザエさんの執筆に疲れたときに、手すさびで試みた絵画や土人形などもなかなかの味わい。驚きの連続の会場です。今回の展示は、表現者としての長谷川町子に光を当てることになるのではと期待しています。

町子さんは、そして彼女が生みだしたサザエさんと磯野家のひとびとは、まさに戦後という時代を生き抜いてきました。いまも決して古びることなく,家族の温かさ、優しさ、ぬくもりを語りかけてくれます。そんなサザエさんとその家族に囲まれて、昭和の気分にひたってみませんか?