館長ノート

着任のご挨拶と小倉遊亀展のこと

いつの間にか,西大畑公園も桜から新緑の季節になりました。着任のご挨拶が遅くなってしまいましたが,4月に着任した前山と申します。塩田前館長は「美術館は生きているか?」という投げかけをこの「館長のノート」に残されました。美術館の基本方針を継承し,常にこの言葉を戒めとしたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いします。
着任して最初の展覧会となったのが「小倉遊亀 絵筆にこめた愛」です。上村松園と並ぶ女性日本画家の草分けですが,副題にあるように身近な対象への愛,つまり愛しみつつ描き出す,素敵な画家の展示が初仕事となったことを幸運と思っています。

遊亀(ゆき)の亀から連想したのが,「盲亀の浮木(もうきのふぼく)」という言葉です。100年に一度目が見えない亀が水面に浮かぶ,そのとき水面を漂う木の穴に頭が入る,それほど稀な,という意味です。なぜこれを思い出したかといえば,小倉遊亀の最大規模のコレクションを誇る滋賀県立近代美術館が,大規模な改修工事で閉館していることで可能になった,いわば千載一遇の機会をとらえた展覧会だからです。このチャンスにぜひともご覧いただきたいと思います。

私の個人的な見方ですが,会場を歩いていると,日本画では通常あまり描かれないものがとても気になり,その魅力に惹きつけられました。たとえば,チラシにもある《兄弟》では背景のステンドグラス。ほかにも,果物を保護するネットなど。なによりのお気に入りは,カセットテープレコーダーと電源コードです。《聴く》という題名からも,音が主題であることがわかりますが,構図をみればこの小さな電気製品が人物と同じくらいの重要さで描かれていることがわかります。これらのものがもし描かれていなかったらと想像すると,小倉遊亀の身の回りのものを尊重する態度,それが「絵筆にこめた愛」だということがよくわかる気がします。
もうじき,一部展示替になります。後期の作品もご期待いただくとともに,前期の作品もお見逃しなきようお願いいたします。

これからも「愛される美術館」,「居心地のいい美術館」でありたいと願っています。引き続きよろしくお願いいたします。

前山裕司

 

「小倉遊亀 絵筆にこめた愛」はこちら

小倉遊亀 《聴く》1974年 滋賀県立近代美術館蔵

峯田義郎「部屋の中の午後(一人)」と前山館長