館長ノート

アラーキーが撮った新潟の街と人。

今日は69回目の終戦記念日。この国の来し方を振り返り、現在を考え、未来を見つめる、一年のなかでも特別な日です。開催中「荒木経惟 往生写集 愛ノ旅」には,《去年の戦後》というシリーズが展示されています。文字通り、去年の終戦記念日を挟んだ約20日間に撮った、日付入りの東京の街、人々、メディアの報じるニュース、食物、夏空の雲などです。ピントを結ばない8月15日の二重橋。レンズらしきものをかざしてこちらを眺める女性もくっきりと像は結びません。何か不透明で不安な時代を象徴するような写真です。時代の空気を自然とすくい取ってしまうアラーキーです。

「愛ノ旅」と題するように、展覧会は妻陽子さんとの新婚旅行に取材した名作《センチメンタルな旅》から始まります。死の床に就いた陽子さんを追う《冬の旅》、愛の日々を回想するような《愛のバルコニー》。どれも胸に迫る哀切さです。

荒木さんは新潟とのゆかりが深く、80年代後半何度も新潟を訪れ、写真を撮っています。そうした新潟での写真、そして《アラーキーのニッポンの、いま》(現在、新潟日報に連載中)、《去年の戦後》の最新作へと続く構成です。私的な愛から、より広い人間への愛へと向かう旅といえるでしょうか。

新潟の皆さんにぜひご覧いただきたいのは、《新潟エレジー》というシリーズです。80年代末、新潟でネッツという雑誌が出ていました。等々力弘康氏主宰で、いまから見ても大変クオリティの高い雑誌です。この雑誌に掲載されていた写真、それが《新潟エレジー》です。

路面電車の走る新潟の街並み、古町のバーや飲み屋街、芸妓さん、笹団子を作るおかあさんたち、雪の降る萬代橋を歩く少年たち。被写体となった方々は、誰もがいきいきと生活を楽しんでいるように見えます。ある意味で良き時代だったのかもしれません。同時に荒木さんがモデルとなった人々の心を解きほぐし、生の輝きを引き出しているようにも見えます。

まったく予期せず来館され、ご自分が写っているのを発見され、びっくりされたお客様もすでに何人かいらっしゃいます。ひょっとしたらあなたも写っているかもしれませんよ。20数年前のあなたに会えるチャンスです。もしも、ご自分を発見されたら、遠慮なく会場の係員にお申し出ください。