館長ノート

ルドンの秋

ナナカマドの実も赤く色づき、西大畑公園の紅葉もまっさかり。11月2日からは、「オディロン・ルドン‐夢の起源」展が始まりました。

新潟市美術館ではルドンのパステル画2点とリトグラフを1点所蔵しています。コレクションのなかでも私たちがとりわけ大切にしてきた作家、作品であり、その意味でも今回の展覧会は、ルドンの内面的なこころの奥底を覗き込むような作品世界を大勢の市民のみなさまに見ていただく良い機会と考えています。

ルドンに《眼をとじて》というリトグラフの作品があります。眼をとじて静かに瞑想にふける人物の頭部が大きく描かれた作品で、今回も岐阜県美術館所蔵のものが出品されています。眼に見えるもの、移ろいやすい現象世界にとらわれることなく、眼に見えないものを見据え、かたちを与えようとしたルドンの制作態度を象徴するような作品です。

一方で、同じ《眼をとじて》というタイトルの岐阜所蔵の油彩作品も出品されています。こちらは色鮮やかな花々に囲まれた瞑想者という、打って変って感覚的な表現です。一見、対照的な世界のようにも見えます。でも実は、闇のなかでうごめく夢と幻想の領域も、パステルや油彩の色彩の豊穣も、どちらも自らの心の淵深く測鉛をおろすことによって獲得された世界でもあるのです。

私たちはいま過剰な情報の氾濫のなか、激変する状況に流されるように生きていないでしょうか。眼をとじて内面を見つめることは、現代を生きる私たちにとってこそ必要なことかもしれません。

会期中、11月24日にはルドンについての著作もある多摩美術大学教授本江邦夫さんのご講演、12月7日にはピアニスト鶴園紫磯子さんによる「ルドンの夢をたどって~画家が愛した音楽」と題するトーク&コンサートなど、関連イベントも満載です。(鶴園さんは今春、日本経済新聞文化欄「美の十選」で西洋近代美術と音楽の関係について執筆されていた方です。)コレクション展も「こころのかたち」と題し、ルドンへのオマージュというべき内容です。

晩秋の一日、ルドンの世界にひたってみてはいかがでしょう。