新潟市美術館ブログ

田畑あきら子について―「洲之内徹と現代画廊」展から―

現在開催中の「洲之内徹と現代画廊」展。

文学者、画廊主、美術収集家として、そして何より美術エッセイ「気まぐれ美術館」(『芸術新潮』)で知られた洲之内徹。昨年生誕100年を記念して始まった本展は、宮城県美術館、愛媛県美術館・町立久万美術館と巡回し、ここ新潟市美術館が最後の会場となります。

萬鉄五郎、中村彝、佐藤哲三、松本竣介、海老原喜之助、長谷川潾二郎、村山槐多…ほか、洲之内ゆかりの56作家、約190点の絵画や彫刻が展示されています。いずれも、しみじみと見つめたくなる作品ばかり。

展示作品の中から、田畑あきら子(1940-1969)について、少しご紹介しましょう。

田畑あきら子は、ここ新潟は西蒲原郡巻町(現新潟市西蒲区)に生まれた画家。中学時代から読書や詩作に耽り、大学は武蔵野美術大学洋画科へ。卒業後、同大学図書館司書を務めながら創作を続けましたが、数度のグループ展と一度きりの個展に出品した後、28歳の若さで胃癌のため亡くなりました。

没後、友人たちの手により遺稿集が発行され、遺稿集を目にした洲之内が「気まぐれ美術館」(1976年2月号)で取り上げたことなどから、その作品が世に知られていくこととなりました。

会場では、田畑あきら子の油彩2点、水彩・素描4点(前・後期で展示替)に出会うことができます。また、新潟県立近代美術館(長岡)のコレクション展(6月22日まで)にも、3点の作品が展示されています。

画面には、淡いブルーやホワイト、ピンクといった色が、かたちとも線ともとれるような姿で漂っています。合間には、言葉の断片なのか、文字も見つけることができます。それらが重なり合いながら、浮かんでは消え、消えては浮かぶ。洲之内が「なんという夢のようなとりとめのなさ、なんという優しさと激しさ、なんという美しさ」と評した作品からは、若く瑞々しい、かつ女性らしい感性も伝わってくるようです。

去る5月10日、生前の田畑と親交のあった吉増剛造氏(詩人)と、田畑の作品を新潟市美術館で紹介したことのある大倉宏氏(砂丘館館長、元新潟市美術館学芸員)に、田畑について対談を行っていただきました。
スクリーンに明滅する田畑の作品やポートレートを前にして、吉増氏が言葉を選び、会場にゆっくりと発する様子は、まるで、田畑あきら子の想像と創造の過程を目にするかのよう。田畑あきら子その人が傍で息づいているような不思議な感覚を会場全体が共有した、濃密な時間でした。

展覧会には、ご遺族や同級生だったという方々なども来館されています。懐かしそうに作品を見つめる姿に、「人々の記憶の中に、作家や作品は生きているのだ」とあらためて実感させられました。

展覧会場の様子

展示風景

講演会当日の風景

講演会場風景 

田畑あきら子ポートレートと吉増氏

ポートレートと吉増氏