新潟市美術館ブログ

幻の『サザエさん』復刻の話

新潟市美術館で7月15日(月・祝)まで開催中の「サザエさん!展」の目玉の一つ。それは、長谷川町子の最初の本『サザエさん』(1947年)が復刻されたことです。これは、まんが研究史上の一つの事件だと思います。

「サザエさんならウチにもある、あった」という皆さんがご存知の長谷川町子の単行本は、姉妹社版のB6判『サザエさん』全68巻、あるいはA5判『よりぬきサザエさん』全13巻でしょう。先ごろ『よりぬき』は朝日新聞出版から復刻され、大好評のようです。

ここでご紹介する1947年の『サザエさん』は、B5判ヨコ綴じという、絵本のようにチャーミングな造り。デザインだけでなく内容も、ご存知のB6判第1巻と同じではありません。これは、長谷川町子と姉妹社が、最初に出した本でした。ところが、書店では棚に入れにくいということで、返本が相次いだそうです。

最初は不人気な時期もあったこの本が、戦後の町子の、そして戦後日本のまんがの、とても大切な出発点となりました。今では、どこの図書館でも、古書店でも見ることのできない、幻の一冊となっています。もし、この1947年発行・B5判ヨコ綴じの『サザエさん』を持っているという方がおられたら、ぜひご一報ください。

さて、今回この復刻版が制作されるまでのエピソードをご紹介しましょう。

長谷川町子美術館には、幻の1947年版『サザエさん』が、3冊だけ所蔵されています。これを新潟市での「サザエさん!展」に来場される皆さんに、ぜひご紹介したい。私たちには、そんな気持ちがありました。そこで、幻の『サザエさん』現物だけでなく、その収録作品のうち、現存する原画全ての拝借をお願いしました。これにご快諾を頂いたばかりか、この機会に復刻版を刊行することまで決断されたのです。まるで夢のようでした。

復刻版制作の作業は、長谷川町子美術館学芸員・橋本野乃子さんを中心に行われました。まず、ご所蔵の3冊のうち貴重な1冊からホチキスを外して解体、全ページをスキャン。スキャン画像からフォトショップで紙のシミや汚れを一つ一つ取り除きました。大変なお仕事だったのではないかと思います。印刷にあたっては紙質や刷色にもこだわり、中綴じの造本も再現。ホチキスには錆びないステンレス針が使われました。

さらに橋本さんは、この復刻版の巻末に(1)初出紙《夕刊フクニチ》、(2)B5判『サザエさん』、(3)B6判『サザエさん』第1巻の3つを比較した対照表(大労作!)を収め、充実(というか超充実)した解題も書いて下さいました。個人的には、実物よりも復刻版の方が欲しいと思うくらいにパーフェクト。長谷川町子美術館ならではの素晴らしい「作品」です。

ちょっとマニアックなことまで書いてしまったかもしれませんが、基本、とてもかわいらしい本です。初期のサザエさんの絵は、いま親しまれているのとはかなり違いますが、かえってそこが魅力的。せりふは全てカタカナで書かれています。さらにB6判第1巻では読むことができない作品や、描き直されることになる作品も含まれています。終戦直後の街でいきいきと暮らすサザエさんやワカメちゃんたちの姿、私たちの知らない「サザエさん」が、この本にはあります。

新潟市美術館での販売は、「サザエさん!展」会期中のみ。1冊1,500円。展覧会の始まりとともにオープンしたミュージアムショップ「ルルル」のデザインによるボックス付き(1,800円)も、会場限定で販売しています。ボックス付きはギフトにも保存用にも最適です。はっきり申し上げて、これがもう大好評。どうぞ一度お手に取ってごらんください。

O係長ディレクション、F学芸員撮影

「サザエさん」復刻版、赤いボックスは「ルルル」限定です