
画家のパレット 道具から絵画へ
10月3日に「画家のパレット 巨匠たちの創作の秘密」展がオープンしました。
茨城県の笠間日動美術館が所蔵する著名画家のパレットコレクションと、その主である画家の絵画を並べて展示した、すこし変わった内容の企画展です。新潟市美術館の所蔵作品と、当館に寄託されているBSN新潟放送の所蔵作品も出品しています。パレットと絵画を合わせて約80点を展示しており、ボリューム感もあります。暑さがやわらぎ、すごしやすい季節になりました。ぜひご来館いただき、今年の「美術の秋」の記憶の1ページに加えてください。
「画家とパレット」といえば、フランスの素朴派の画家アンリ・ルソーの《風景のなかの自画像》(1890年制作、プラハ国立美術館蔵)という絵画を思い出します。黒いベレー帽とスーツ姿のルソーが左手にパレット、右手に絵筆を持ち、セーヌ川の右岸、カルーゼル橋のたもとに立っている姿を大きく描いた作品です。日本地図のようなかたちをした雲や気球が浮かぶ広々とした空、1889年のパリ万博の万国旗で飾られた帆船、万博の象徴として建造されたエッフェル塔などが背景に描かれています。ルソーが持つパレットの上には、まるで色見本のように、10色程度の絵の具がきれいに並んで出されています。そのようなパレットは、素朴ながらひとつひとつ丁寧に描画されたルソーの絵画のイメージとつながります。
本展に出品されている実際のパレットと作品では、たとえば、フランスでブラマンクに学び、日本のフォーヴィスムの代表的画家とされている里見勝蔵のパレットの状態は、激しい筆触と赤、黄、緑の配色を特徴とする、強烈な色彩の里見の絵画制作と一体化しているようです。
鴨居玲の、縁周りに絵の具の塊が盛り上がって山並のようになったパレットは、常に人間の生と死を凝視し、命の実態を厳しく探求した鴨居玲の重厚な絵画のイメージとつながります。
今回は「へたも絵のうち」のことばで知られる、熊谷守一のパレットと作品も出品されています。出品のパレットは、よく知られるパッチワークのような、簡潔な形による明るい色面構成の絵画を制作していた時期に使っていたものと思われますが、その表面の状態は、本展出品の、チュウブから直に絵の具を絞って人物を描画した、すこしグロテスクな作風の絵画と共鳴し、さらに明治から大正期に制作の、荒々しい筆遣いによる表現主義的作風の絵画を彷彿とさせるものです。
このように、本展は、パレットの状態にそれぞれの画家の作風、表現内容との関連を探るという楽しみがあります。
その一方で、本展出品のパレットの多くは、絵を描くときの道具としての純粋なパレットというものではなく、パレットを支持体とする「絵画作品」という性格を有したものでもあります。パレットの縁周りに出された絵の具に囲まれるようにして、あるいは絵の具に紛れるようにして、私のパレットだといわんばかりに、画家による絵が描かれています。本展でいちばん最初に展示されているモーリス・ユトリロをはじめ、三岸節子、野口彌太郎、鳥海青児、片岡球子、絹谷幸二のパレットなどは、もはや絵の道具ではなく、絵画作品といってもよいでしょう。
本展出品のパレットのなかで、私の推しは三岸節子の雲形のパレットです。上部には三岸がしばしば絵に描いた鮮やかな赤い花、その左には葉々をイメージさせる強い緑、それらの下にレモンイエローの三日月と白い雲、左には夜のメリーゴーランドに乗り、月の光に照らされて貌、腕、脚が白く浮き上がる人が描かれています。右下には「宵月と花」というタイトル、「S. Migishi 節子」と筆書きの署名まで入っています。ごつごつしたマチエールもある三岸節子の絵らしい、もうパレットという木の板を支持体として制作された、美術作品として鑑賞することができるパレットなのです。
会場で絵の具の匂いを感じながら、パレットと絵の関係、パレットに見られる画家の性格などを想像し、楽しみながら鑑賞してください。

